日本に帰国したから話す、Hi-So事業の無期限休業決定に至った経緯

隔離期間が終了し、よっしゃー!ガンガン出歩くぞー!と意気揚々としていたのですが、私が現在住む大阪は緊急事態宣言が発出されたため、残念ながら人と会うのはなかなか憚られている高田です。トホホ、、、

さて前回、「日本に帰国したから話す、CDMの是非と誰も知らぬ間に死ぬ人々」を投稿してから、大変多くの方からご意見を頂戴しました。

これまでには無かった視点からミャンマーの現状を捉えたため、賛否両論様々なご意見を頂戴しましたが、新しい視点を皆様に示せたことに価値はあったかなと思います。

私の帰国後、ジャーナリストの北角さんが拘束され、その後も日本人、日本育ちのミャンマー人など複数名が指名手配されている話も聞くと、もし自分の帰国が遅れていた場合、自分自身も危なかったかもしれず、後ろ髪を引かれながらもあの時に日本帰国を決断して良かったと感じています。

さて前回に引き続き、日本に帰国したから話すシリーズ第二弾として、Hi-Soの無期限休業に至るまでの苦悩の一部を皆様にお伝えできればなと思います。

つーっと涙が頬を伝ったクーデターの朝

クーデターの朝。目を覚ましスマホを手に取ると、そこには安否を不安がるメッセージが複数届いていました。

 

「マジかよ。」

クーデターの噂は1月末から少しは流れていたものの、まさか現実になるとは思ってもみませんでした。

頭も寝癖でボサモサのまま従業員と連絡を取り合い、まずはクーデターが事実であることは確認が出来ました。

それらの情報に基づき、当日の営業停止に関する指示出しや関係各所への連絡を一通り終えた後、ベッドに横たわって天井を見上げた時、自分の眼からは自然と涙が流れました。

「終わった。」

ようやく冷静になった自分はその時、今まで積み上げてきた積み木が音を立てて崩れる音が聞こえました。

この記事を読んでいる方の中には、「え、早くね?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、冷静になってすぐに自分がそのように感じたのには明確な理由があります。

それは、我々がスモールビジネス型事業ではなく、スタートアップ型事業をおこなっているスタートアップ企業だったからです。

スタートアップ企業とは

読者の中にはスタートアップについて詳しくない方も多いと思うため、まずはスモールビジネス型とスタートアップ型の事業モデルの違いについて簡単にご説明します。
(スタートアップに興味がない方もいらっしゃると思いますが、この機会に是非、ご一読の上ご理解頂ければなと思います。)

スモールビジネス型とスタートアップ型の事業モデルの違いは下記の通り。

[引用元] https://www.slideshare.net/masatadokoro/startup-science-startup

[引用元] https://medium.com/code-republic-blog/スタートアップの7つの成長プロセス-1-市場選定-d914b87a9f78

つまり、スモールビジネス型事業は、自己資本、借入金を中心に地道にコツコツと収益を積み上げていくビジネスモデルですが、一方でスタートアップ型事業は、最初は赤字でもいいからドンドン成長して、最終的に大きく儲けよう!という戦略の違いがあります。

そのため、同じ起業というカテゴリーではあれど、スモールビジネス型事業とスタートアップ型事業では、事業拡大の手法や、起業家の目線も大きく異なります。

例えば、両ビジネスモデルともに「収益の最大化」という最終目標は共通ですが、短期目標に関しては

スモールビジネス型=企業収益の最大化

スタートアップ型=企業価値の最大化

と異なります。

それは何故か。

スモールビジネス型事業の場合、事業成長資金は、事業収益、および借入金のため、もしそのビジネスモデルで短期間で利益が出ない場合、利益や追加借入金を使った成長投資ができません。

ですが、スタートアップ型事業の場合、会社発行株式の売却により得られる資金を主な事業成長資金として位置付けていることから、大赤字で借入ができなかったとしても、企業価値が向上し株式売却による資金調達が継続できれば事業継続が可能だからです。

つまり、スタートアップ型事業における資金調達は、会社の成長拡大にとって必要不可欠であり、故にスタートアップ経営者にとっては事業経営を通じた企業価値向上が最も重要になってきます。

では一体、企業価値とはどのように決まるのか。

手法についてをここで掘るとかなり難しくなるため、敢えてここでは個別具体的な方法には触れませんが、一般的な企業価値算定の場合、DCF法、マルチプル法などが用いられることが多いです。
ですが、スタートアップ起業の場合はそれらの手法(特にDCF法)だけを使って算出することは少なく、それぞれのビジネスモデルごとにGMV(流通総額)、ARR(年間経常収益)等の指標を使い算出することが多いです。
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そして、日本等の先進国企業の場合は上記の手法を用いて算出された、「事業性 + 将来性」が単純に企業価値として算出され、それをもとに投資判断がおこなわれますが、一方で途上国企業への投資の場合、ここに”カントリーリスクプレミアム”という概念が加わります。

ではカントリーリスクプレミアムとは何か。
(もう少しです…! )

具体例を上げると、例えばアナタの目の前に日本とミャンマーの国債が置いてあり、日本国債が年利0.1%、ミャンマー国債が年利0.2%の場合、皆さんはどちらを買うでしょうか。

恐らく多くの方はミャンマー国債を買いたいと思わず、低利でも仕方なく日本国債を選ぶと思います。

それは何故かというと、たった年利0.1%の差であれば、政情不安リスク、為替変動リスク等を考慮すると、日本国債を持つ方が一般的に安心できるからです。

一方、日本国債が年利0.1%、ミャンマー国債が年利20%だとするとどうでしょう。

人によっては、年利20%もあるのであれば、多少のリスクはあれど、日本国債ではなくミャンマー国債を選ぶ方が出てくるでしょう。

この”差”というものが、カントリーリスクプレミアムであり、投資家としてはこの”プレミアム”を加味したとしても十分に投資価値がある場合、VC等は投資を実行することになります。

つまりスタートアップの企業価値は、先進国、途上国で下記のように異なり、各社を比較した際にカントリーリスクプレミアムを減額した上でも事業に将来性があって初めて、他先進国、途上国スタートアップとの比較の上で投資を獲得することができるのです。

先進国スタートアップの企業価値=事業性 + 将来性

途上国スタートアップの企業価値=事業性 + 将来性 – カントリーリスクプレミアム

長々とここまで諦めずにお読み頂いた方は、ようやく私が「終わった。」と合理的に判断したかが理解できたかなと思います。

つまり、

①Hi-Soは継続的な資金調達を必要とすつスタートアップ型事業

②スタートアップ型事業を伸ばすには企業価値の継続的な向上が不可欠

③クーデターを受けたとしても、少なくとも長期的な視点では事業性、将来性は変わらず。だが、カントリーリスクプレミアムが大幅増大し、引き算”が大きくなりすぎた結果、他市場、他企業との投資獲得競争で勝てる見込みが絶望的

当社の場合、昨年、追加資金調達を完了させたばかりだったため、1年以上事業を継続することは可能でした。

ですが、クーデター発生に伴ってスタートアップ型事業の成長モデルを継続することが絶望的になった以上、今後も状況改善が見込めないのであれば早期に精算プロセスに入り、なるべく多くの金額を精算配当として株主に返金することが、経営者として株主利益の最大化(株主損失の最小化)に繋がると感じました。

これがベッドに横たわって天井を見上げた時、自分の眼から涙が流れた訳です。

継続したい! 諦めたくない!

ですが、実際にはHi-Soはその後も暫く営業を継続しました。

それは私の中で、論理的に理解した自分に対する、感情の抗いでもありました。

ここから自分の中での、「論理 vs 感情」 の戦いが繰り広げられます。

これまでHi-Soは、他社に比べて配達員、従業員の教育をしっかりとおこない、当たり前のことを当たり前に積み重ねてきた結果、利用者、店舗から高い評価を得ていました。

ですが、Food Panda, Grab Foodなどの競合他社は例えサービス品質はそこまで高くなかったとしても、大量の札束を投下したマーケティング、プロモーション、人材引き抜きによって、彼らのシェアを徐々に広げていました。
(ちなみにユニコーンでお金があるFood Panda, Grab Foodですら、店舗への売上送金期日を守らないというとんでもない状況でした…)

「負けたくないし、我々はサービスでは彼らに劣らないからこそ、我々がマーケティング、プロモーション戦略をさえしっかりとすれば十分に戦える。」

そう考えた私は、昨年末に第二回目となる資金調達を実施し、2021年1月から一気に攻勢をかけ始めました。

①ミャンマーで絶大な人気を誇る森崎ウィンのブランドアンバサダー起用

②初回ユーザー割引、店舗とのタイアップ割引

積極的なマーケティングも功を奏し、2021年1月は当初の計画通り推移していました。

「よし、このまま2月以降も計画通り成長を続け、秋頃には大型調達を実施するぞ。」

そう意気揚々としていたタイミングで発生したのが、今回のクーデターでした。

論理的にはスタートアップ型事業としての厳しさは理解したものの、戦いの狼煙を上げたところだったからこそ、自分の論理に感情は素直に頷きませんでした。

そこで自分としては、今回のクーデターが早期に終了する可能性に掛け、事業継続をすることにしました。

自分の「やりたい!」が、従業員、配達員のリスクに

治安状況悪化や、通信状況悪化など、ミャンマーの状況は刻々と変化し続けた中でも、最後の望みをかけて再開したオペレーションは、日々、苦悩の連続でした。

下記がクーデター以降の営業状況です。

2月1日 ~ 2日:一時営業停止(治安状況見極め、インターネット不通)
2月3日 ~ 5日:営業再開
2月6日 ~ 8日:一時営業停止(大規模抗議活動、インターネット不通)
2月9日 ~ 26日:営業再開
2月27日 ~ 3月2日:一時営業停止(配達員の襲撃、オフィス前への催涙弾着弾)
3月3日:営業再開
3月4日:営業停止(Food Pandaの配達員の射殺)
3月5日:営業再開 → 再び営業停止(オフィス前への催涙弾着弾)
3月6日 ~ 27日:一時営業停止(配達員への襲撃)
3月28日 ~:無期限営業停止

上記の小刻みな営業停止、再開の連続は、何とかして再開したい、諦めたくないという自分の気持ちをまさに表しています。

日々、従業員に「そろそろ再開できないか?」と聞き続け、従業員を説得し続けた日々でした。

ですが3月4日に、競合他社のFood Pandaの配達員が射殺されたことをキッカケに、自分の中でハッと気付くことがありました。

それはクーデター発生以降、常に「安全第一」と従業員、配達員へ言い続けていたにも関わらず、実際には自分の心の中は「継続第一」で考え、自分の”やりたい!”が従業員、配達員を危険に晒していたことでした。

勿論、経営者が”やりたい!”と思わない事業はありえないと思いますが、この自分自身の”やりたい!”によって、仮に誰かの命が奪われた場合、取り返しがつかないことになると気付きました。

そこからは、口だけじゃなく、本当に「安全第一」にしようと考え、翌日、再び催涙弾がオフィス前に着弾したこともあり、まずは3月中の営業停止を役員会で決定。
そして、これまで先延ばしにしていた最終判断期限を、”事態が動く”と言われていた3月27日の国軍記念日の翌日までに状況改善が見込めない場合は、無期限休業にすることを決断しました。

その後のミャンマーは全土でモバイルインターネットが切断されるなど、国軍による民衆への弾圧は強硬に。

事態好転の最後の希望であった国軍記念日もミャンマー全土で100名以上が殺害されましたが、国軍、民衆ともに大きな動きはなく、残念ながら事態が長期化する見通しが濃厚になりました。

「非常に非常に残念ですが、無期限休業しようと思います。」

翌28日の役員会にて、先延ばしにすることなく、無期限休業を決定しました。

帰国して

これがHi-Soが無期限休業を決めるまでの裏側ストーリーの一部です。

帰国した今でも、この一連の判断が正しかったのかは未だに分かりません。
ですが、早期に判断した結果、誰の命も奪われることがなかったことは唯一の救いでした。

日本に帰国して約3週間が経ち、徐々に気持ち的にも余裕が出てきました。
ですが、未だに耳からデモ隊の声援や爆発音は離れません。

次に何をやるかはまだ決めていませんが、仮に次がミャンマー関連の仕事ではなかったとしても、今後もミャンマーとの個人的な繋がりは続けていきたいと思います。

一日も早く、自分の大好きなミャンマーに平和と安全が戻り、ミャンマー人に笑顔が戻ることを願います。

尚、「日本に帰国したから話す」シリーズの第三段として、「日本に帰国したから話す、僕がミャンマーの民衆側リーダーたちに伝えてきたこと」を記載する予定でしたが、現在、民衆側とやり取りがあった日本人、ミャンマー人がミャンマー国内で拘束される事例もあり、Hi-Soの再開、自分のミャンマー帰国の可能性を消さないためにも、残念ながら記事にはしないことにします。もし気になる人は会った時に聞いて下さい。

 

まだ完全に諦めたわけじゃないから。

 

 


TK、アジアで財閥作るってよ(Startup in Asia)をお読み頂きありがとうございました。 

お仕事のご依頼やインターンのご相談等あれば、お気軽にご連絡ください。

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